LD等の支援方法の解説
日本LD学会が発行している
「LD・ADHD等関連用語集【第4版】」より
支援方法に関する用語を抜粋して転載しています。
応用行動分析applied behavior analysis
応用行動分析は、スキナー(Skinner,B.F.)によって創始された行動分析(主として、動物を被験体として、実験室において、環境を厳しく統制して行われてきた実験的行動分析)の知見を、日常場面での人間行動の理解とその変容に用いる領域をさす。
行動分析の基礎となっているのはオペラント条件づけ(道具的条件づけ)の考え方であり、それは、行動を個体と環境との間の相互作用としてとらえ、分析の枠組みとして、“先行刺激(antecedent stimulus)-行動(behavior)-後続刺激(consequent stimulus)”という三項随伴性を用いるところに特徴がある。つまり、研究あるいは指導の対象となっている行動(標的行動)を、その行動に先立って生じ、行動生起のきっかけとなる刺激(先行事象)と、行動に後続して生じる環境の変化(後続事象)との機能的な関係の中でとらえていこうというものである。先行事象は、手がかり、後続事象は、帰結あるいは強化とも呼ばれ、行動をこのような枠組みでとらえることを、三項の頭文字を取って、ABC機能分析と言うことがある。
行動の変容に関して、この立場からは、先行事象を操作する方法と後続事象を操作する方法の2つの方法が示唆される。前者に関しては、例えば、「席に着きなさい」「○○ページを開きなさい」と行動に先立って指示をすること、後者に関しては、「いい姿勢で座っているね!」「そうだね、そのページでいいんだよ!」と、行動に後続して褒めたり、認めたりすることが考えられる。行動分析では、行動が何によって強化されているのか、その行動を変えるには、どのように強化を与えたらいいのかに重点を置いて考えることから、この立場を強化理論に基づくアプローチと言うことがある。
学習指導teaching academic skills
LD児の学習指導では、教科学習に限らず、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論するといった、学習上の基礎的能力の向上を目指すことが多い。また学習の到達度だけでなく、学習意欲や自己有能感の向上、個に合った学習スキルの獲得をねらった指導も不可欠である。指導にあたっては、心理・学力面などの総合的なアセスメントを行い、つまずきやニーズ、認知特性や行動特性を踏まえた上で個別の指導計画を作成し指導を進めることが望ましい。
通級による指導special support services in resource rooms
通級による指導とは、1993(平成5)年に制度化された特別な指導であり、指導の場は「通級指導教室」といった呼称で呼ばれている。通級による指導を利用する場合、児童生徒は通常の学級在籍したままで、一部、特別な指導を受けることにより、学校生活の適応を高めることを目指している。具体的には、弱視や難聴、肢体不自由、言語や情緒などの障害に基づく種々の困難を改善するために、自立活動や必要に応じて教科の補充指導を受けることが可能である。実際の指導には、自校での通級、他校からの通級、担当者による巡回指導など様々な形態がある。
なお、2006(平成18)年から、LDやADHDが通級による指導の対象に加わっている。また、その際には、情緒障害として括られていた自閉症が切り離されて独立した対象として明記されている。2018(平成30)年度には、高等学校における通級による指導の運用が開始される予定(※)である。
※記載は本書発行時(2017年11月)時点のもの
ユニバーサルデザインuniversal design
障害者の権利に関する条約第2条の中に、「ユニバーサルデザインは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することができる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう」と明示されている。
そもそもユニバーサルデザイン(以下UD)は、建築家ロナルド・メイス(Mace,Ronald,L.)によって提唱された理念であり
- 誰でも公平に利用できる
- 使用の自由度が高い
- 使い方が簡単ですぐにわかる
- 必要な情報がすぐにわかる
- 操作ミスや危険につながらない
- 無理のない姿勢で楽に使える
- 使いやすい空間が確保される
とUD7原則の概念が提案されている。この7原則を、教育や授業に置き換えて考える動きがある。
また、アメリカのCAST(Center for Applied Special Technology)が提案している「学びのユニバーサルデザイン(UDL)」では、教師が学習者に対し、
- 情報や知識を得て理解するための多様な提示方法を駆使
- 児童生徒が理解したことを表現するための多様な表現方法を駆使
- 学習への興味ややる気を持続して課題に取り組むための多様な酸化の方法を駆使
と3原則をあげ、教師が学習者の様々なニーズに合わせた多様なアプローチを用意することの重要性を提案している。
合理的配慮reasonable accommodation
障害者の権利に関する条約(2014年1月20日公布)では、「『合理的配慮』とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享受し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されている。教育分野においては、「障害のある子供が、他の子供と平等に教育を受ける権利を享有・行使することを確保するために、学校設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子供に対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」については、一律の基準はなく、学校の設置者および学校の体制面、財政面を勘案しながら、個別に判断すべきである。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において「インクルーシブ教育ステム構築支援データベース」(研究指定校の実践)が公表されているが、決定の際には、設置者の教育環境の整備(基礎的環境整備)の状況が様々であるため、あくまで参考情報の1つであり、合理的配慮の実施については、設置者および学校・園が判断することが大切である。
基礎的環境整備
障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国、都道府県、市町村は教育環境の整備をそれぞれ行う。これらは「合理的配慮」の基礎となる環境整備であり、それを「基礎的環境整備」と呼ぶ。整備を進めるにあたっては、ユニバーサルデザインの考え方も考慮しつつ進めていくことが重要である。なお、「基礎的環境整備」については「合理的配慮」と同様に体制面、財政面を勘案し、均衡を失した又は過度の負担を課さないよう留意する必要がある。
RTIresponse to intervention/instruction
RTIは、「指導に対して、子どもが反応(習得)しているかをとらえていく」モデルである。RTIへ注目が高まった背景には、米国における教育上の課題(例えば、LDと判定される子どもの数の増加)があった。そこで、従来行われてきたLDの判定モデル(知的能力と学業成績との差を重視するディスクレパンシーモデル)に代替するものとして米国IDEA(2004)でも触れられている。つまり、反応が乏しい子どもを、特別な教育的ニーズがある子どもとして判断することになる。
RTIの代表的な3段階のモデルでは、まずは、通常の学級内で、効果的な指導をすべての子どもを対象に行う。その際、指導の効果(子どもの伸び)が見られるかについて客観的な根拠を得るためアセスメントを行う。続いて、段階2では、段階1で低得点を見せた子どもに対して、補足的な指導を実施する。さらに、段階3では、段階1、2を経ても依然伸びが乏しい子どもに対し、より個に特化した指導を実施する。段階が上がるほど、子どもの習得具合を丁寧に見ていく必要があるため頻繁にアセスメントを行う。これを子どもの伸び(プログレス)を見ていく(モニタリング)という意味で、プログレスモニタリングと呼ぶ。
RTIの読みは「アールティーアイ」。