連続講座「新学習指導要領時代における学びの多様性をいかすための一貫した支援」
第7回本連続講座を振り返って
岡野 由美子(奈良学園大学人間教育学部
(広報委員会副委員長))
LD定義を再考する
本連続講座は、会報第113/114合併号(2020年9月発行)が連載のスタートでした。第28回大会の「LDの『定義』を再考する」をテーマから示唆をいだたき、始まった連載です。この大会の頃は高等学校における通級による指導が開始され、学習指導要領が改訂、特別支援学級や通級による指導の対象など障がいのある児童生徒については個別の指導計画及び個別の教育支援計画の作成が義務化されるなど、この数年で日本の特別支援教育に関して様々に新たな展開のあった時期でした。
そして、学びの連続性のみならずその多様性を理解し、教え方に反映させていくこと、指導上の工夫を場当たり的ではなく根拠あるものとしていくことが求められるようになり、通級による指導を担う教員は、この点においてまさに校内のキーパーソンであり、通常の学級の指導支援につなげるためにも、その資質の向上が急務となっていました。
本連続講座では、このような本分野のさらなる深まりと広がりが期待される中、「学びの多様性を生かすための一貫した支援」、と称して各発達段階における教員や関係機関の支援者の方々から、それぞれの立場における、LDの理解と支援について特化した話題提供をいただきました。本稿ではこれまでの5回の記事を総括し、今後の各地でのさらなる実践に繋げたいと思います。
小・中学校、高等学校における取り組み
寄稿いただいた全5回の記事の内訳は、小学校の実践が1、中学校の実践が1、高等学校の実践が1、連携事業者の実践が1、夜間中学校の実践が1でした。
新型コロナ感染症拡大の猛威が世界を震撼させ、期せずしてGIGAスクール構想が前倒しで実施されることとなり、学校現場には急激にICT環境が整えられ、タブレット端末などの1人1台配置が進みました。教員の知識もノウハウも追いつかない中、機器は導入されていきました。
熊本市立帯山小学校では、タブレット端末の導入が、個別最適化の学びへの学校現場及び教員の意識の変化へとつながり、ICT化を推進したこと、またそれによる教師の指導支援の在り方を改めて考察していただきました。
教師側の意識の変化と、これまでの教科指導の軸足とのせめぎ合いによって改めて問いただす学力感は、大変興味深いものでした。ここで寄せていただいた記事は、当時の学校現場にも勇気と知識を提供してくださったものと感じています。
また、仙台市立高砂中学校では、通級指導教室に通う生徒が、それぞれ他の生徒とお互いを認め合う雰囲気の中、意欲的に学習に取り組める環境づくりについて述べていただきました。冷やかしやからかいなどにさらされることなく、「互いの個性を大切にする」ための、通常の学級担任と通級による指導の担当教員が、適切に連携をとることの効果について、おまとめいただきました。
高等学校における通級による指導については、開始3年間の取り組みについて、兵庫県立西脇北高等学校の実践をご紹介いただきました。高等学校における通級による指導では、それぞれの生徒が自己の理解をすすめることがキーポイントとなってきます。
西脇北高校での、本人が自分の特性を踏まえ、よりよい対処の方略を身につけていくための指導実践は、大変興味深いものでした。生徒や保護者、担当者の、「様々に明るく生きることができるようになった」という声は、通級指導の効果が現れであり各地の担当者に励みとなる情報ではなかったかと思います。
連携事業者における取り組み
東京都立高等学校では、外部連携事業者の活用という試みがなされていました。高校教員と外部人材とが、共にティームティーチングの形式を基本として指導を行うという実践は、全国的にも珍しい取組であると考えられます。高校の教員が、専門的な知識のある人材のノウハウを肌で感じながら専門性の向上を図り、多様な生徒に対応していく実践には、今後の発展に胸がワクワクするような期待を覚えました。
「チーム学校」を謳われていても、実際にはなかなか連携には難しさが伴う現場も多いですが、このような都の施策による推進を他府県にも広く紹介していただけたことが、今後に繋がると期待しています。
夜間中学における取り組み
平成28年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」が成立しました。これは、不登校児童生徒等に対する教育機会の確保や、夜間等において授業を行う学校における就学の機会の提供などについて定めています。多様な学びに対応する内容で、その重要性が明記されました。
そして、徳島県立しらさぎ中学校は、全国初の県立単独校の夜間中学として開校され、その取り組みについてご紹介いただきました。「誰も置いてけぼりにしない」という合言葉からは、年齢も国籍も学習経験も就学状況も様々な生徒に対応し、丁寧な指導に取り組んでこられた様子を伝えていただきました。
新しい学校の教員と、学びへの意欲のある生徒とがつながり合い、お互いに良い循環を生み出しつつあるという姿が、開校初年度とは思えない大きな取り組みであると感じました。全国でも夜間中学の新設が進められています。
学びの多様性に応じた取り組みが、今後ますます充実していくことに期待も寄せられています。「学び直し」のニーズに応える取り組みがまさに進められています。
まとめ
LD のある子どもたちが学ぶ場の広がりと、それを担当する教員の専門性の確保は両輪であり、双方が充実していく必要があります。本連続講座には全国から様々な機関の貴重な取り組みを示していただきました。連続講座の期間を経て、ゼロコロナからWithコロナへと、世の中の情勢も変化しつつあります。
感染拡大第1波で起こった、学校の全国一斉休校という衝撃から、少しずつ学びを止めない学校へと、取り組みが進められてきました。非常事態における障がいのある子どもたちの教育にも、先生方の工夫と苦労があり、今があります。
また、困難ばかりではなく、GIGAスクール構想は思わぬ形で急激に進みました。個別最適な学びへの転換は、特別な支援を要する児童生徒にとっては大きな教育効果も期待されます。まだまだ第一歩を踏み出したばかりかもしれませんが、これらの変化がもたらす効果や課題なども今後、学会員の情報を持ち寄り、共有して実践を積み重ねていければと期待しています。
社会の情勢には、度々困難さに目を奪われがちですが、特別支援教育で大切にしている「強みを生かす」「ポジティブに捉える」ことを忘れず、着実に確実に取り組みは進んできており、またこれからも進んでいくのだ、という期待を込め、本連続講座を閉じさせていただきます。そして、新たなシリーズへと繋ぎたいと思います。