連続講座「新学習指導要領時代における学びの多様性をいかすための一貫した支援」

第4回西脇北高校通級指導3年間の取り組み

荒木 弘行(兵庫県立西脇北高等学校)

1.特別な支援を必要とする生徒の実態と指導

本校は、特別な支援を必要としている生徒が多く在籍しており、その多くが、中高連携シート(※注釈)や市町のサポートファイル、療育手帳を所持して入学してくる。その生徒達が抱える問題としては、学習面、人間関係面のほか、過去に不登校を経験した生徒や対教師、生徒同士の人間関係によるトラブルが半数を占めている。

自己理解や他者理解の不得手な生徒が多いことが要因であると考えられることから、生徒自らの力で克服する方法を学ばせる取り組みとして、1年次生全員に、学校設定科目「コーピング」の授業を実施している。「コーピング」とは、「cope(問題に対処する)」に由来する心理学用語であり、学習スキルを培うことと人間関係構築スキルを養うことを明確にするため、科目名を設定した。学習スキルと人間関係を学ぶ時間を週1時間ずつ計2単位として実施している。

そして、平成30年度から高等学校における通級による指導が制度化され、兵庫県下においても本校を含む9校が拠点校として「自立活動」を開始した。その後、4年が経過し、拠点校が県下17校、巡回校3校が通級による指導を実施している。本校では、1年次の「コーピング」の発展として、科目名を「コーピングプラス」として自由選択授業時間帯に合わせて週2時間実施し、2単位を認定している。

ユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザイン

通常における授業のユニバーサルデザイン化(画面右上に今、すべきことを示している)

2.通級による指導「コーピングプラス」における取り組み

本校では、以下のように指導している。

(1)個別の指導計画の作成まで

ア 本人・保護者より困っていることや願いを聞き取ることで目標を設定する。

イ 学校生活や行動等について全職員による行動観察(生徒チェックシート)する。

ウ 授業等の様子や個人面談より実態を把握する。

(2)個別の指導計画活用の流れ

ア 自己の困っていることに気づき、回避する方法や伝える手段等を考えて、個々の指導目標(短期・長期)の設定をする。

イ 学習内容については、面談により実態把握し、受講生徒が困っていること、この先困ると想定されることを生徒自身に述べさせた上で、具体的な手立てを計画し活用する。

ウ 評価は、目標が達成できれば、年間2単位認定(後期より受講開始生徒は1単位認定)する。

(3)指導方法

ア 自己理解ワーク
自己理解ワークに取り組み、他の生徒の発表や意見を聞くことをきっかけに、ヒントをもらい自分の意見を言う自信をつけるなど、苦手意識を減らしていく。自分の得手不得手について理解を深める。

イ 状況理解ワーク
小グループで、意見を出し合うことで、物事の考え方や捉え方には色々とあることに気付き、柔軟な対応を身につける。

ウ 就労場面でのマナーワーク
自分の得意なことや興味関心のあることについて調べ、発表することで、ライフスキルやコミュニケーション能力を身につける。そして、将来、困ると思われる事柄について事前に体験することで卒業後のスムーズな生活が送れるように理解を深める。

エ 記録やメモを取る練習

(ア)iPadやスマートフォンを活用する。

(イ)発表をする、聞く、メモを取る習慣をつくる。

(ウ)焦らず落ち着いて書き込むことになれる習慣をつける。

(4)指導上の工夫

合理的配慮として、小グループ指導や個別指導に柔軟な対応が出来るように、通級による担当教員を複数配置し、個に応じた指導が出来るようにしている。

(5)指導体制

ア 担当教員8名

イ 役割として、多部制3部制であるため各部に3名が授業担当する。1部と2部には、主担当1名が兼務し、他2名が担当に入り、3部には3部職員が3名担当する。

(6)校内連携

教務部、生徒指導部、進路指導部、保健部、特別支援教育部、各部長の5名を特別支援教育コーディネーターとして配置している。各教科担当者や担任とは、年度当初に生徒チェックシートを活用し、年間を通して、各生徒の日頃の様子の変化を確認しながら、通級による指導を行なっている。(年度当初にチェックシート提出を依頼している。)

(7)教職員全体の研修

校内研修を年間3回以上実施している。その成果として職員の意識向上、各関係機関との連携や相談体制の整備などが挙げられる。また、特別支援教育コーディネーターだけでなく、全職員が関係機関と切れ目なく生徒の支援を繋ぐ意識も定着しつつある。

(8)センター的機能の活用について

ア 本校への関わり方について

(ア)指導方法について教師へのコンサルテーション

(イ)支援ニーズへの対応(特別支援学校より生徒の支援方法や手立てについて情報提供や連携協力)

イ 特別支援学校から通級担当者に様々な情報提供を受けた内容について

(ア)教材紹介(参考図書)

(イ)授業の進め方

(ウ)情報機器の利用について

(エ)発達特性のある生徒の問題行動への対応方法と保護者理解への対応について

(9)他校での教育相談について

近隣校へ巡回訪問
通級による担当教員が、近隣校を訪問し支援を必要とする生徒のニーズやその関わりについて話し合いを進めている。巡回指導を希望された場合、開始するまでの手順を伝えている。

(10)通級による指導対象生徒の進路先への引継ぎについて

インターンシップや就職応募・進学出願する際に対象生徒にはサポートファイル等があることと、おもな特徴について進路先に伝えている。内定や合格後には、就労または進学移行支援計画を作成してサポートファイルに綴じ、引き継いでいる。

(11)通級による指導についてのコメント

ア 通級による指導を受けた生徒・保護者の声

(ア)中学時と違って、毎日明るく楽しく生活を送れるようになっている。

(イ)人と話す機会が増えたことで、少し上手く話せるようになっている。

(ウ)発表をしたり聞いたりすることで、自分のことについて気づくことが多くなっている。

イ 通級による指導の効果について、担任・授業担当者の声

(ア)対象生徒が自分の意見が言えるようになっている。

(イ)対象生徒が相手の気持ちを考えられるようになっている。

(ウ)対象生徒が特定の人にしか相談できなかったが、多くの人に相談できるようになっている。

3.おわりに

近年、本校において、中高連携シート(※注釈)やサポートファイルの引継ぎの有無に関わらず、何らかの支援が必要な生徒が多く在籍している。高校入学後に困難さの訴えに対して、外部関係機関と連携することも多くあり、助言をいただきながら生徒への支援や指導に関わるケースが増加している。高校入学より早い段階から、小学校・中学校や関係専門機関と連携することが不可欠となってきている。

兵庫県特別支援第三次推進計画に挙げられているように、縦(たて)横(よこ)連携を密に行うことで、うまくいった事例やうまくいかなくても方法によればできる事例を引き継ぎながら、自己理解やコミュニケーション力と同時に、「自分一人でできる」「周りの支援を得てできることがわかる」「何を、どのようにしてほしいのか他者に求められる」といった力を引き出しながら指導ができるように今後も取り組んでいきたい。

(※注釈)中高連携シート
兵庫県では、特別な教育的支援が必要な生徒が、高等学校でも一貫した支援が受けられるよう、生徒についての必要な基本情報や中学校での生活や学習状況などをまとめた支援に必要なシートのことである。個別の教育支援計画、個別の指導計画を作成していない場合でも、中高連携シートを使って引継ぎを行っている。