連続講座「新学習指導要領時代における学びの多様性をいかすための一貫した支援」
第6回徳島県立しらさぎ中学校(夜間中学)開校初年度の取り組み
籔内 純一郎(徳島県立しらさぎ中学校)
1.全国初の県立夜間中学として開校
夜のしらさぎ中学校校舎
本校は、令和3年4月に全国初の県立単独校の夜間中学として、定時制・通信制独立校の徳島県立徳島中央高校の敷地内に開校した。夜間中学は、戦後まもなく昼間に学校に通えない生徒のために、教職員がボランティアで時間外に勉強を教えるところから始まった。全国各地に広がりを見せたが、1960年代に入ると国の施策として、夜間中学の廃止が進められ激減することになる。
それでも、義務教育を奪われた人々の必要性を訴える声が後押しし、存続したり、新しく開校した夜間中学もあった。夜間中学を取り巻く環境が大きく変わったのが、平成28年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」が成立したことである。
徳島県では、平成27年度から「中学校夜間学級協議会」を設置し、全県でのニーズ調査や中学校教職員への意識調査などを行った。ニーズ調査の結果や、平成22年の国勢調査で1425名の義務教育未修了の方が存在すること、平成29年度の中学校の不登校生が483名、外国人就労者が4024名いて増加傾向にあることなど、夜間中学の必要性が認められた。
その後の検討を経て、市町村立よりも県立での設置の方がメリットが大きいとの判断から、全国で初めて県立での夜間中学となった。平成31年の設置表明から2年に及ぶ開校準備を進め、無事に開校のはこびとなった。
2.しらさぎ中学校の入学者の状況
開校初年度、37名の生徒が在籍している。(4月当初入学生34名※うち1名5月病気退学・中途入学4名)年代は16歳から89歳までと幅広く、国籍も、中国・フィリピン・タイ・韓国・インドネシアの5か国13名が学んでいる。
県立で設置したため徳島市をはじめ、県内10市町から通学しており遠距離通学の方も多い。学びの目的も様々で、戦中戦後の混乱の中、学校での学びが十分でなかった高齢の方、不登校やひきこもりを経験された若年の方、日本語力が十分でなく生活に不安を抱えている外国籍の方など、多様な背景を持った方々である。
ただ、共通していることはみなさん学びへの意識が高いことである。学び直しをしたい、新たな学びをしたいという積極的な目的を持った方が多く、授業に対しての取組も真剣である。
3.しらさぎ中学校の教育課程(コース制授業)
本校では、学校教育法施行規則及び学習指導要領で規定された、学齢超過者に対する夜間中学における特別の教育課程を編成して教育活動を行っている。授業時数は、1コマ40分で1日4時間、週あたり20時間である。授業は、学年に関係なく4コースに分かれて行っている。
(1)チャレンジ1コース(6名)
基本的・基礎的な内容を、ゆっくりと進めていくコース。当初は、小学校内容から始める予定であったが、生徒の状況に合わせ中学校内容をチャレンジ2コースよりゆっくり、丁寧に進めている。
(2)チャレンジ2コース(12名)
中学校1年生程度の内容から始めるコース。教科書と独自教材を併用しながら授業を進めている。1年取り組んできて、教科によってはコース内での学習内容の習得差が大きくなってきた。
(3)チャレンジ3コース(4名)
高校進学や資格取得に向けて、教科書を中心に授業を行うコース。不登校などを経験した、若年の生徒が多いコース。短期間で高校進学などを目指している。
(4)ベーシックコース(15名)
ベーシックコースの授業
日本語を中心に学びたい外国籍の方を対象としたコース。チャレンジコースで国語・社会・理科に当てている8時間を「日本語指導」に当て、日本語指導を充実させている。現在外国籍13名と、外国由来の日本籍の2名が学んでいる。
日本語能力には差が大きいので、現在2名の生徒には、英語・数学の時間のうち5時間、取り出しの個別日本語指導の授業を行っている。日本語指導は、昨年度「県立総合教育センター」で長期研究員として、日本語指導の研修を受けた教諭と、日本語教師の資格を持つ常勤講師が中心に担当している。
4.「誰も置いてけぼりにしない」を合い言葉に
個別支援の様子
多様なニーズに対応するため、ほとんどの授業において複数の教員を配置し、2名から4名の教員で担当している。主になる教員が授業を進めながら、サポートの教員が個別の支援に当たっている。夜間中学では、これまでの学習経験や、就学状況も様々であるため、それぞれの状況に個別に対応する必要がある。
また、分からないことは分からないといえる雰囲気作りも大切にしている。我々教職員は「誰も置いてけぼりにしない」を合い言葉に実践を重ねてきた。生徒の様子や状況をしっかりと観察し、生徒の思いや希望にしっかりと耳を傾け、対等な関係で接するようにしている。
このようにして教職員が知ったり、気づいた情報を持ち寄り、毎週水曜日には「生徒理解ミーティング」を開いている。この中で、すべての教職員で生徒一人一人についての情報共有や共通理解を図っている。この中では、学習の状況だけで無く、生徒が困っていることや、先生方が対応に困っていることなどを出し合い、互いにアドバイスをしたり、対応策を話し合ったりしている。
また、定期的にケース会議を開き、気になる生徒への対応についてホワイトボード・ミーティング®の手法を取り入れ話し合いを行っている。このような取組を通じて、「生徒さんが主役の学校」を目指した、教職員がチームでサポートする体制が構築された。
5.今年度の振り返りと次年度への課題
県内で初めての夜間中学ということで、全ての取組がゼロからのスタートとなった。コロナ禍で、県外先進校への視察もできず、教職員が試行錯誤を重ねながら手探りで、実践を重ねてきた。
ゼロだからこそ、全ての教職員がアイデアを出し合って取り組む環境ができたことはよかったことである。生徒の学びへの積極的な姿勢に感化され、それに答えようとする教職員の姿勢が上手くかみ合い、いい循環になったように思う。課題は次の通りである。
(1)ひきこもりや不登校を経験した生徒や、仕事を持っている遠距離通学の生徒の登校が難しくなっていること。
(2)授業で個別の対応が必要な生徒が増加し、教員の割り振りが厳しくなっていること。
(3)外国籍の生徒の日本語能力に合わせた指導方法の工夫・改善を図ること。
このように、開校2年目に向けて、改善すべき点も多く見えてきた。学び直しを希望する方々の思いに答えられる夜間中学を目指し、今後も取り組んでいきたいと考えている。