連続講座「新学習指導要領時代における学びの多様性をいかすための一貫した支援」
第5回東京都立高等学校における通級による指導に関わる外部連携事業者の取組
齊藤 宇開(TASUCグループ 代表)
はじめに
東京都は、2021年度(令和3年度)より、全都で東京都立高等学校(以下、「都立高」という)の、通級による指導を開始した。すでに全国の高等学校では、様々な工夫を凝らした施策に基づく通級指導の実践が行われているが、ここでは東京都の特徴の一つである「外部連携事業者」の活用という試みを中心に報告する。
なお筆者は、指定された事業者のうちの一つ「TASUC株式会社」の代表を務めている。
1.東京都における通級指導の枠組み
(1)都立高における通級による指導に係る連携事業者の活用
東京都教育委員会は、通級による指導に係る連携事業者の活用について、「都立高における発達障害教育の充実を図るため、令和3年度から、どの都立高に進学しても、発達障害等のある生徒が、特別な指導を受けられる環境を整備し、その際、通級による指導を受ける生徒が在籍する都立高の教員と、発達障害等のある生徒への指導経験のある外部人材とが、ティームティーチングの形式を基本として、指導の対象となる都立高校生に対して、通級による指導を行うこと」としている。
また、連携事業者募集要項によれば、連携事業者とは、都立高(都立中等教育学校後期課程を含む)における通級による指導の円滑な実施にあたって、発達障害等のある都立高の生徒の自立と社会参加を支援する東京都教育委員会の取組に賛同し、連携する民間の事業者としている。
(2)対象生徒
以下の①から③を全て満たす生徒(②③は小・中学校特別支援教室と同じ)
①都立高校又は都立中等教育学校後期課程に在籍する生徒
※全日制・定時制・通信制や、学科は問わない
②知的障害がなく、発達障害等(自閉症、情緒障害、学習障害、注意欠如多動性障害)があり、通常の授業におおむね参加でき、一部、障害に応じた特別な指導を必要とする生徒
③生徒本人と保護者が通級による指導を希望し、かつ、学校及び東京都教育委員会に指導が必要であると認められた生徒
(3)通級による指導の内容
将来の自立や社会参加のために、「コミュニケーション」「感情のコントロール」「自己理解」など苦手な生徒に対し、その実態に応じて指導*する(*「指導」とは、特別支援学校高等部学習指導要領の「自立活動」の内容を参考とした「指導」)と示している。
また、指導例として、
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クラスメイトに、自分の思っていることを上手に伝えられない生徒に対して、気持ちの伝え方や、自分に合った表現の方法を身に付けられるようにする。
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現実的ではない計画を立ててしまう、課題を期日までに提出できない、といった生徒の特性に応じて、スケジュールや自己管理の方法を身に付けられるようにする。
ただし、通級による指導は、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服することを目的とした指導を行うものであり、教科の補習など、学習の遅れを取り戻すことを目的とした指導は行わない、としている。
2.ティームティーチングの形式の通級指導の実際
東京都教育委員会は、連携事業者の活用の目的として、以下のように示している。
在籍校の先生と専門的な知識やノウハウのある支援員*が、ティームティーチングの形式で指導を行う。〈*専門的な知識やノウハウのある支援員〉として、発達障害等のある生徒への指導経験のある外部人材と連携して指導する。
(1)発達障害等のある生徒に対する指導の経験やノウハウ等の活用
東京都教育委員会は、高等学校における通級による指導の制度化以前から、高校生などに対して指導・支援を行ってきた民間事業者の貴重な経験やノウハウ等を活用し、都立校における通級による指導の充実を図る。
(2)都立校における発達障害教育の推進
都立校の教員が、外部人材と連携しながら生徒を指導することによって、外部人材が持っている指導ノウハウ等を身に付けるとともに、指導による生徒の変容をきめ細かく把握し、校内で共有することを通じて、当該教員をはじめとして学校全体の発達障害教育に対する更なる理解促進を図る。
(以上「都立高等学校における通級による指導に係る連携事業者募集要項(令和3年1月 東京都教育委員会)」より)
3.支援の実際
連携事業者に指定された事業者として、東京都教育委員会の事業目的に準じて、事業を構築した。そこでは、発達障害等のある生徒に対する指導の経験やノウハウ等の活用として、「通級指導パッケージの提案」、及び、「都立校における発達障害教育の推進」として、学校全体の発達障害教育に対する更なる理解促進を図るための「事例に関する協議(ケースカンファレンス)の具体的な方策」に関するノウハウの提案を行った。
(1)通級指導パッケージの提案
学校とのチーム体制を構築するためにも、①インテーク、②アセスメントの実施、③ケースカンファレンス、④通級による指導、⑤その他授業への応用、へと進めていった。
図のように、自己表現、相互信頼、社会的要請に分けてアセスメントを行い、グループやモデル利用をとおして「自己表現」、「相互信頼」、「社会的要請」を指導した。主な内容は、指導者と一対一の対人コミュニケーションの学習や、思考力を高めたり、論理力を向上させるための言語技術教育を行ったりしている。
(2)事例に関する協議(ケースカンファレンス)の具体的な方策の提案
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すべての対象生徒の授業で、指導担当者と支援員による事例の協議を行った。
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通級による指導のためのノウハウとして、「思考ドリルなどのプログラムを提供した・同学年の先生、研究担当やコーディネーターの先生なども同席していただいた。
(3)生徒Aさん
生徒Aさんは、インテーク資料を読み込むことで、WISCなどのアセスメント結果からワーキングメモリの課題があることが明らかだったため、手帳の習慣化を図った。毎日のルーティンが無く、生活が安定しないことも課題だった。
その結果、手帳に書き出すことで、自分の思考を外在化することができるようになり、自分の心や体の状態を知ること(いわゆるメタ認知)が進み、本人が自覚的に生活を改善できるようになってきた。
4.今後の課題
今後は、事業者の提供したプログラムを参考に、学校の指導担当者が主導した指導目標、個別指導計画に基づいて行われた授業に対して、評価改善の支援を行う。また、保護者や地域の支援者とも意見交換をおこなって、「チーム学校」を築いていこうと考えている。