連続講座「新学習指導要領時代における学びの多様性をいかすための一貫した支援」
第3回学級担任と連携した指導支援
伊藤 陽子(仙台市立八乙女中学校
(実践当時:仙台市立高砂中学校))
狩野 佑介(仙台市立高砂中学校)
新学習指導要領では、総則第4で、特別な配慮を必要とする生徒への指導の充実が述べられるとともに、教師と生徒、生徒間の良好な人間関係が学習生活の基盤となること、学級経営の充実により生徒の発達を支援することも記載されている。
確かに、個別に生徒の障害や特性に応じた指導や支援が行える通級指導教室で生徒たちは「できた」「これならできる」という達成感を持てたとしても、大部分を過ごす通常学級でそれを汎化させたり、生かすことができなければ一貫した支援は難しい。連携の難しさについては日々実感している。
反面、学級担任の先生方の生徒への配慮・対応には頭が下がるばかりである。今回は、前任校での学級担任と連携し、一貫した支援ができた事例を紹介する。以下に、学級担任であった仙台市立高砂中学校の狩野教諭による実践報告を記載する。
1.通級指導教室に通うまで
私の担任した学級では、通級指導教室(以下、はぐくみ教室)に4名の生徒が通級した。自身の特性により、友人関係に課題を抱える生徒や学習そのものに課題を抱える生徒など、それぞれ何らかの課題意識を強く持っていたが、はぐくみ教室で学習を行うことによって、より前向きな気持ちで学校生活を送ることができるようになったと感じる。はじめに、4人の生徒の概要を紹介する。
生徒Aは、小学5年時にADHDの診断を受けており、1年の秋頃からはぐくみ教室での学習を開始した。
中学1年時の担任より引継ぎを受け、中学2年に進級後も継続して通級していたが、こそこそ隠れるように通級していた。生徒Bは中学1年の入学時から、授業中に教科書の音読ができない、字が正しく書けない等の課題が見られていた。
中学2年に進級し、本人の困り感が強くなったこともあり、夏の保護者との教育相談を行った際に、現状とはぐくみ教室について説明を行った。面談を通して、保護者の課題意識も徐々に高まり、2学期よりはぐくみ教室で学習を行うようになった。Bは「みんなから、からかわれるのではないか」と不安を訴えていた。
生徒Cは、夏の面談で保護者から学習面について不安があると相談を受けた。生徒Cは教室で落ち着いて学習に取り組むことが難しい場面が多く、本人、保護者とも困り感が強かった。そこで、生徒Bと同様にはぐくみ教室を紹介し、はぐくみ教室への通級を決めた。
生徒Dは、こだわりが強く、そこから生じるソーシャルスキル不足から、中学校入学時から円滑な友人関係の構築ができず、悩みを抱えることが多い生徒だった。この生徒については、夏の教育相談に限らず、担任が保護者と定期的に面談を行い、本人の課題を保護者と共通認識することによって、はぐくみ教室での学習につなげた。
4人については、事前にはぐくみ教室担当教員に状態を伝え、通級につなげるべきか、保護者にどう伝えるか、通級開始後の担任としての役割や連携方法について相談していた。
2.はぐくみ教室に通う生徒への支援
はぐくみ教室で学習する生徒たちに対して学級担任として行うことができる支援は次の2点であると考えた。
1点目は、はぐくみ教室での学習内容を生徒と学級担任とが共有することである。学習状況やはぐくみ教室での様子を把握するため、はぐくみ教室担当教員からの連絡帳には必ず目を通し、コメント欄に生徒への賞賛や、担任が学習内容に興味を持っている旨のコメントを記入した。後に生徒から聞いた話では、はぐくみ教室担当教員だけではなく、学級担任からもコメントがあることで、はぐくみ教室での学習に、より意欲的に取り組むことができたようである。
また、空き時間には、わずかな時間でもはぐくみ教室に足を運び、学習の様子を観察したり、一緒に活動を行ったりした。このような取組を継続的に実施することで、生徒理解が進み、保護者と共通理解のもと、生徒の支援に生かすことができた。何より、生徒や保護者との信頼関係が構築できたと感じている。
2点目は、生徒が安心してはぐくみ教室に通級できる環境を整えることである。思春期の生徒たちであり周囲の目が気になるのは当然である。学級内で、からかいや冷やかしがあれば、通級することが難しくなることが想定された。
そこで、当該生徒本人と保護者の承諾を得た上で、学級担任が学級の生徒たちに対して、「生徒A、B、C、Dが週に1~2時間、自分の苦手なことを克服するために、はぐくみ教室で学習すること」について説明をした。特に強調したのは「自分の苦手なことを克服しようと頑張る決意をした。」という点である。
また、折に触れて、4名の生徒がはぐくみ教室で行っている学習内容の一部を学級担任が学級で紹介するという取組も行った。元来、学級経営の柱として、「互いの個性を大切にする」ことを掲げていたこともあり、学級の生徒たちは4名がはぐくみ教室に通うことについてすぐに理解を示してくれた。
それだけではなく、生徒同士で、はぐくみ教室で行った活動について話したり、「次の時間、はぐくみに行ってくるね」という会話がみられるようにもなった。生徒Aや生徒Cは昼休みに自分の友達をはぐくみ教室に連れて行き、一緒に活動を行うこともあった。はぐくみ教室を「昼休みに誰でも遊びに来ていい」と解放してもらったことも功を奏したように思う。
3.タブレット端末の教室導入に向けて
通級指導教室の授業を見に行ったときの様子
生徒Bについては、のちにLD(読み書き障害)の特徴を専門機関から指摘された。はぐくみ教室ではタブレット端末を使ったデイジー教科書の活用を練習しており、専門機関からの助言もあり、タブレット端末の教室導入を校内で検討した。
一番ネックになったのは、学級内の生徒にどのように説明・理解させるかであったが、今までの取り組みの結果、生徒全員が理解し、応援する雰囲気もあり、Bは周りの生徒の協力をもらいながらタブレット端末を授業の中で利用することができた。
以上のような取組を継続して行ったことにより、4人の生徒たちは授業を抜けるという後ろめたさを一切感じることなく、自信をもってはぐくみ教室に通級することができた。自身の課題を克服するために努力する4名の姿勢は他の生徒にとっても参考にするべきものとなり、学級全体のお互いを認め合う雰囲気や士気の向上につながったと感じる。連携により一貫した支援ができたことから、4名の生徒たちは笑顔で学校生活を送ることができ、自信を持って高等学校へ進学できた。
正直、配慮の必要な生徒が多数在籍する学級の担任となり、学級担任として何ができるか、何をすべきか、悩むことも多かった1年であったが、振り返ると4人の生徒のみならず、担任する学級の生徒たちとともに歩めた1年でもあった。現在は担任をはずれ、生徒指導を担当する立場となったが、校内の通級指導担当と連携して支援にあたったこの経験は、現在の業務にも大いに役立っている。